第21回 長野県 アトリエpuchuco様

からくり人形という立体物で、多くの人を感動させたい。

福田氏が手がけるからくり人形は、単に使用している素材が違うというだけではなく、日本の伝統的なからくり人形とは明らかに印象が違う。ここに掲載している写真以外の作品も一通り拝見すると、どれも切なさや儚さ、淡い恋心、おかしみなど、これまでのからくり人形では見かけることがない感情に溢れている。「もともとハッピーエンドでは無いものが好きだったということもありますが、人間のそういった感情をからくりなら表現できると思ったんです」。これまで一度も、からくり人形はつくったことが無かったが、ものづくりが好きだったおかげで苦労と感じることなく努力し続け、全て独学で仕組みなどを習得していったそうだ。からくり人形づくりにおいて目指していることを伺うと「私は歌も好き、本も好きで、そのどちらも感動して涙を流すことがあります。音楽なんて、1分ぐらいで感動してしまうことがある。それは、皆んなも経験あると思います。そんな人々の心を打つものを、立体物で表現したいと思っています」。同氏のからくり人形にはもう1点、他とは違う点がある。それはからくりの仕組みが見えないことだ。「一般的に、からくりの仕組みが見えるのは普通ですが、私は絶対に見せないようにしています。そうすることで、からくり人形の感情が伝わると思っているからです」。

絵画にふれながら、ものづくりが当たり前の環境で育つ

福田氏の幼少時代の話を伺っていると、現在の人物像はその頃から育まれてきたということが分かる。「父親も母親も絵が好きで、二人とも絵を描いていましたし、父は手作りで家具など様々なものをつくっていました。家には有名な画集もたくさんあり、美術館にもしょっちゅう連れていってもらえる環境は良かったですね」。福田氏には双子の弟で絵本作家のとしお氏がいる。美術に触れ合える同じ環境で育ち、とても仲が良かったため小さい頃から一緒にものをつくったり、絵を描いていたという。以前英生氏は、からくり人形のパーツの一部としてアルミ球をつくった。それは、アルミホイル(16m)1本分を切らずに丸めて叩いて球にしたものなのだが、フォルムは美しく、表面は鏡のようにキレイに仕上げられている。英生氏はこのアルミ球をツイッターに投稿すると、20万以上もいいねがつき、国内だけでなく海外からも取材や問い合わせが殺到。さらにはテレビなどのメディアでも多く取り上げられるほど話題になった。このアルミ球、実は最初につくったのは英生氏ではなくとしお氏だという。としお氏が小さい頃つくっていたことを思い出し、からくり人形の制作に活かしたという。「ユーチューバーがアルミ球づくりに挑戦したり、クレーンゲームの景品になったり、アルミ玉のみが一人歩きしてしまったことは、当初戸惑いがありました。しかし最近は、からくり人形を知ってもらえるいい機会になったと思っています」。

お互いの存在が、作品づくりにシナジーをもたらす。

小さい頃から一緒に遊ぶことが多かった二人に、さらに当時のことを伺うと「どちらかが絵を描いたらそれを真似したり、ビー玉や貝殻を磨いていたらそれ以上キレイに磨いたりしていました」と英生氏は思い出してくれた。「でもそこにライバル心は全くないんですよ、純粋にもっといいものをという気持ちだけです」と、としお氏は言う。その言葉を意味するエピソードがある。二人で宝探しをする遊びが流行っていた。「1枚の紙にヒントが書いてあるんです。“洗面所に行け”と、そこで蛇口をひねると水と一緒に別の紙が出てくる。そして新たな指示に従うんです」ととしお氏。「ある時には、座標が描いてあって、その座標に天体望遠鏡を合わせて覗くと、向かいのマンションの手すりに紙が貼ってあるんです。望遠鏡で拡大して見ると、そこには指示が書いてあるんです(笑)。そんなことを交互にやっていました。ライバルではないんですが相手より面白いものを考えたいという気持ちは常にありましたね」と英生氏は教えてくれた。今でもお互いにつくっている作品を見たり、出来上がった後でも見せ合っているそうだ。弟との関係を英生氏に聞くと「気にはしていませんが、気になる存在ではありますね」と答えてくれた。それは、認め合っている仲だからこその言葉であり、相手の存在が作品づくりにおいてもシナジーをもたらしているのだろう。“いつか共同で一つの作品をつくりたい”という、英生氏ととしお氏の二人の夢の実現が、今から待ち遠しい。