第26回 北海道 GR COMPANY様

アラブの石油王が天然資源を利用しているように、北海道の地域資源に着目。

売れ行きが悪くなった理由は明確だった。古着から新品が求められるようになったこと、そして本格的なウェブの時代が到来したことだ。「みなさんネットで買い物をするようになり、店舗で洋服を買わなくなりました。店舗の意義を問われる時が来たのです」。単にトレンドの変化だけなら、古着から新品をメインにすればいいだけの話だが、店舗にお客様が来ないとなると新たな戦略が必要となる。「アラブの石油王はなぜお金持ちなのか改めて考えてみると、天然資源を利用しているからだと気付いたのです。それをヒントに、北海道でとめどなく溢れてくる地域資源は何か?ということで、害獣として駆除されているエゾシカの角に目を向けました。厳しい冬があるゆえに角がとても大きい。存在自体が、とても魅力的なんです」。もちろんこだわりが強い森井氏、単に角を販売するということは最初から考えていなかった。「他には無い付加価値をつけて商品化すれば、道内だけでなく日本全国、さらに世界に発信できると思いました」。もともとこだわりが強いお店だったので、たとえマニアックでもセンス溢れる良いものであれば、またお客様は戻ってくるという自信もあったという。「イミテーションですが、以前メキシコから輸入した鹿角シャンデリアを扱っていたら3台ほど売れたんです。もしかしたら需要はあるかもしれない。本物の鹿角を使えば、もっと良いシャンデリアをつくれると思いました」。

周りの反対を押し切って、全国紙への広告出稿を決意。

ハンターに依頼し鹿角は格安で入手できたが、最初のモデルをつくるには270万円ほどのお金が必要になる。そのため、直ぐには着手できなかったそうだ。「市の補助金が受けられたので、思い切って舵をきることができました」。構想から7年の時を経てやっと出来上がったプロトタイプを見た周りの反応は「“これは凄い”と皆んな褒めてくれるんです。しかし次に出てくる言葉は“でもこれ、誰が買うの?”という懐疑的な言葉ばかり。良いものだけど、こんなに高いものは誰も買わない、そう決めつけられていましたね」。そんな時に全国紙に広告を出す機会を得る。それまで自店のわずか4万円の広告を出す時でさえ、スタッフと話し合い止めたりしていたのに、全国紙と言え80万円、しかも2分の1ページサイズの広告を掲載しようと決意する。「スタッフみんな不安でしたよ。でも自分で企画してつくり込んだものなので、惜しみなくお金を出せる。しかも新しいチャレンジだったので広告を試してみたかったんです」。すると1週間ほどして、1本の電話が入る。東京の大手アパレル関係の人からのオーダーだった。「広告を見て電話をくれました。その方アメリカで同様の商品を見たことがあるそうなんですが、“ここまでクオリティの高いものは見たことがない。凄い!”って褒めてくれました。嬉しかったですね」。それからは都内の大手企業の社長やライブのステージで使用したいというアーティストなど、続々と依頼が殺到。森井氏が決断した広告の出稿は間違っていなかったことを、想像以上に証明することになった。

理想のライフスタイルはカウボーイ。

鹿角シャンデリア「DEER HORN SMITH'S」は、森井氏と同氏が信頼するスタッフの手により、1台1台丁寧につくられており、年間40~50台の制作が限界だそうだ。森井氏はアパレルの店を出しているが、単に洋服を売るよりも、こだわってつくったものを認められた時の喜びの方が大きいという。「私の理想のライフスタイルはカウボーイなんです。カウボーイは馬の世話をしたり、なんでも自分でやりますよね。それが憧れなので、自分でものを作ることに喜びを感じるのだと思います」。実は森井氏、以前リアルカウボーイを目指していたことがある。自然の多い小高い丘に家や工房を建てたのもそういった理由から。今は仕事が忙しくて手放してしまったが、実際に馬を飼っていたことがあり、街を散歩をすることもあったそうだ。そんな森井氏に憧れてスタッフとなり、10年以上共に鹿角シャンデリアをつくり続けているのが村上氏だ。元々はショップのファンでいちお客さんだったが、森井氏が声をかけて手伝うようになった。「以前彼が働いていた職場の働きぶりを見た時に手伝ってもらいたいと思ったのがきっかけです」。夜中の3~4時まで働いていた時に、森井氏がダメ出しをしたことがあった。そのダメ出しを受け入れたら、さらに2時間以上の作業が必要になるが、村上氏は素直に受け入れたという。「彼も私と同じくらいブランドを思う気持ちが強い。だからお互い妥協をしないんです」。北のカウボーイたちによって丁寧につくられた鹿角シャンデリア「DEER HORN SMITH'S」は、今日も日本のあちこちで明かりを灯し続けている。