第27回 和歌山県 ハヤシ・シザース様

中途半端は嫌い。やると決めたからには1番を目指す。

ハサミの製造という、これまで一度も考えたことがない職に就いた林氏。まだ若かったこともあり、一度だけ辞めようと考えたことがあるという。「自分には向いてないと思って、父親に辞めると言ったんです。すると“そうか、好きにしろ”とスパッと言われてしまって…逆に続けようと思いました。私には天邪鬼なところがあって、するなと言われたらやりたくなる。そんな性格を父親は分かっていたのかもしれません」。もともと負けず嫌いな性格でもある林氏は、どうせやるなら一番になると決めてリスタートする。「目標が決まっていると簡単なんです。達成するためにやるかやらないか、二つしかないから」。“やるしかない”と簡単に話す林氏だが、ハサミの製造は工程数がとても多く、手で覚えて行く仕事。一人前になるには相当な年数が必要となる。早く出来るようになりたかった林氏は、自身が担当する工程以外は終業後自ら同僚に教えを請い、さらにそれだけではもの足りず独学を積み重ねながら技術を習得。ハサミの製造及び修理が出来るようになった後、独立を果たした。「独立はしたものの、製造技術のみを磨き続けていた私にはお客さんはいませんでした。もちろん営業経験も全くないので、営業をしている友達に教えてもらい、美容室を回ってハサミを研ぐことから始めたのです」。

業界では珍しい、一人ひとりの理想のハサミをカスタムで提供。

「美容師さんたちも最初は不安だったと思いますね。30そこそこの若造に、大切なハサミを研ぐことを任せるなんて」。林氏は地元の和歌山や大阪といった関西圏だけでなく関東にも営業。地味で時間がかかる営業であったが、それが功を奏す。研いだハサミを渡しながら、一人ひとりのハサミに対する理想の形や思いを聞くことが出来たからだ。「その人の手の形や大きさにあったハサミをカスタムで一丁一丁つくってあげたんです」。それまではカタログに掲載されているハサミを注文するという形が出来上がっていた。だが林氏は長さやバランス、重さなど細かな部分まで打ち合わせを行い、途中で調整を行いながら完成品をつくり上げる。時間はかかるが、既成の形に合わせて使用していた理美容師たちの目の前にあるのは自分の手にフィットした理想のハサミ。使い心地が良く、切れ味も抜群に良い。感動した多くの理美容師がリピーターとなった。「自社製造・自社販売している会社としては、おそらく業界でもトップクラスの種類の多さだと思っています。一人ひとり好みもカットの仕方も違うので、“こんなのある?”と言われた時に『揃ってるよ』と、今後も言えるようにしたいですね」。

世界一になるためには、世界一努力をする。

「近年、車の安全性能における進化は目覚ましいですよね。私が小さい頃は、自動で止まる車なんて想像できませんでした。車は夢の時代がきているのに、ハサミは目覚ましい進化を遂げていない。だから、私はハサミにも夢を追いかけてみたかったんです」。そんな熱い思いを込めてつくられたハサミが「HYS-MAX67」だ。「ハサミは定期的に研がなければなりません。メンテナンスフリーというのは夢のようなハサミなんです。だから挑戦しがいがありました。耐摩耗性の高い、硬い金属は長持ちする。しかしその一方、靭性(ねばり強さ)がない。しかも、硬度が高い素材は製作段階で割れやすいという難点もある。「靭性のあるものを母材とし、高硬度の粉末ハイス鋼を刃の部分に溶接する技術の開発に成功しました」。さらに林氏は、自社で耐久性試験用の機械も開発。美容師が1日20人、月に20日使った場合でも3年間は大丈夫との結果が出た。なぜ検査機まで開発するのか?その理由を聞くと「私の今の目標は世界一。世界一という目的を達成するには世界一の努力をしなければなりません。だから私が行っているのは、全て必要なこと、必要なものばかりなんです」と教えてくれた。最後に将来の夢を伺うと、広大な工場の開発だという。「20代の頃、足が不自由でも働かせてもらえて今の私がいます。同じようにハンディキャップがある人でも自由に働けるような広い工場をつくるのが夢なんです。この国に対する恩返しの意も込めて」。目標を決めたら、そのゴールに向かって何事もやり遂げる林氏だからこそ、きっとその夢は近い将来叶うだろう。