第1回 岩手県滝沢市 南部鉄器 田山鐵瓶工房様

東北の地で南部鉄瓶を作り続ける田山鐵瓶工房を訪ねた

 工房の代表、田山和康氏は400年以上続く南部鉄器の老舗、盛岡鈴木盛久工房で修行を積んだ職人。東日本大震災のあった2011年3月に岩手山の麓、小岩井で田山鐵瓶工房をスタートさせた。
 立ち上げ当初は、「一人でのんびりやるつもりでいた」と語る田山氏。その後息子の貴紘氏が「親父の跡を継ぎたい」と言いだした時は大層驚いたそうだ。貴紘氏は大学院卒業後、都内食品会社に勤務。しかし生まれた土地を離れたことで、次第に故郷の事について考えるようになっていったという。

今までは父として、
これからは師としても向き合う

 昔は、職人の労働環境はひどく、しかも先輩たちはなにも教えてくれなかった。しかし時代は変わり、今の時代のやり方があるのではと、田山氏は思うようになった。長年勤めた工房を離れる事を決意したのは、定年に近づいた事もあるが、自分がこのままここに居ては、後輩たちが育たないかもしれないと考えるようになったからだと言う。
 今は息子の貴紘氏を弟子として熱心に指導している。分からない事があれば、分かるまで何度でも教える。実の息子故に、意見がぶつかる事も多少はあるが、お互いを尊重する事はけっして忘れないようにしているそうだ。

いつも作品づくりの事ばかり
考えている

 田山氏がこだわっているのは、「見えないところ」。たとえ表面に表れないところでさえ、ひとつでも疎かにすると、それは全体におよび、本当に良いモノは出来ないと考えているからだ。
 そんな考えからか作業に打ち込む時間は、かなり長い。1日の作業を終えた後は晩酌をするが、その後少しだけでもと作業を始める。気がつくと23時を過ぎ、眠くなるまで作業をすることも。「睡眠時間は少なくなりますが苦とは思いません。夜は電話もかかって来ないので、集中出来る良さもある。基本的に夜型人間なのかな」と、明るく笑う。