ものづくりへの熱意が、人々の感動を呼び、評価という結果につながる。
甲冑をはじめとした骨董づくりにのめり込むにつれ、その完成度の高さが評判を呼び、70年代になるとテレビ映画で俳優が使用する“くさり頭巾”の製作を依頼された。専門家のアドバイスを受けながらつくりあげた同品は、丸武産業の名を広める格好の機会となり、時代劇で使用するあらゆる小道具の製作まで声がかかるようになった。現在、私たちが楽しんでいる映画やドラマには、丸武産業の職人達の手で作られたものが数多く使用されている。忍氏はこの成果を、職人達の熱意と技術力のおかげだと微笑む。丸武産業には、「うちではつくれないので頼みたい」という依頼が多い。その都度、忍氏は自ら設計図を考え、新しい技術を考案し、職人達に根気づよく指導。その想いを見事に具現化できたことが、同社の信頼につながったと考えている。
当時の武士達が着ていた甲冑に、どこまで近づけるか。
現代表の賢一氏は、甲冑づくりにおいて史実に基づいた本物を目指している。例えば、武士が闇討ちするシーン。映画などでは歩くたびにカチカチと鎧がぶつかる音がするが、これでは相手に気づかれてしまい闇討ちはできない。リアルな鎧ではないというわけだ。賢一氏は、本物に近づけるために資料を集め、詳しい人の話しを聞き、博物館にも足繁く通った。「甲冑は日本の伝統であり、武士の正装でもあります。武士の魂を守り、後世に伝えるためにも、より本物の甲冑をつくることが、私の使命だと思います」と賢一氏は声を大にする。海外の映画で日本の武士が登場するシーンを見ると、鎧の着方が明らかに間違っていることもあるそうだ。武士の尊厳のためにも、鎧づくりだけでなく監修まで引き受けてもいいと考えている。
継承すべき日本の伝統を、より気軽に、もっと身近なものに。
さらに賢一氏は、本物を目指しながら、皆が着られる鎧をつくることが今後の大きな目標だと語る。現在、自治体が行う祭りへ鎧の貸出しを行っているが、年配の方が重量のある鎧を着ることは、苦労を伴うことが多い。そのため重厚感を持たせながらも、着心地が良く、軽くて長時間着ても疲れない鎧を提供するよう心がけている。映画やテレビで使用するものも同様だ。これは、鎧の基礎を熟知しているからこそ、省ける部分が分かり、最適な素材を選択し、つくり上げることができる同社の強みでもある。他にも、子供たちが着られるような鎧も考案しているという。「鎧は侍のイメージがあり、海外の方からの人気も高い。日本の伝統文化だからこそ、これからの日本をつくっていく子供たちに伝えていきたいですね」。守るべき武士の魂は、着実に継承されようとしている。