第7回 山梨県 公益財団法人 山梨文化財研究所様

文化財の修復とは、今以上劣化しないようにすること。

文化財の修復とは汚れをとって磨くことでも、元の状態に復元することでもない。これ以上劣化しないよう、安定化させることが第一の目的だ。「発掘された状況とその形しか、私たちの知り得る情報はありません。かつてどういう状態だったか推測はできますが、確定はできないんです。証拠がないわけですから」。小銭が曲がった状態で発掘された場合、使っている時に曲がったのか、私たちがまだ知らないだけで、実は曲がっていることに意味があるのか。その判断はできないので、平に伸ばす修復はしないという。藤澤氏はもともと科学者。こういうものだという先入観で考えずに、科学的な証拠をもとにアプローチする。歴史や文化を解明するうえで、とても重要な視点である。

次世代に希望を託して、少しでも多くの文化財を修復する。

物というのは朽ちていくのが基本で、勝手に無くなっていくものだ。だから私たちはゴミに埋もれずに生きている。「そもそも修復は、自然の摂理に反する行為なんですね。だから難しい」と藤澤氏は言うが、それでも多くの物を残したいというモチベーションに満ちている。「文化財には、現在の科学技術レベルでは分からないことがたくさんあります。しかし修復して残しておけば、将来新たな手法が開発され、そこから新しい情報を得られる可能性が生まれます」。例えば現在は1点しかないものでも、全国から10点発掘されればそこに流通があったというような仮説が立てられる。思考や研究の幅が広がるというわけだ。科学技術が進歩し、全てが解明される日を信じて、同氏は今日も修復に取組んでいる。

各専門家達がいる組織をつくり、精度の高い修復を目指したい。

一般的にはあまり知られていないが、実は文化財は毎年大量に発掘されている。だが、修復するには時間的にも金額的にも限界があり、優先順位をつけて修復せざるを得ない。このような状況を踏まえ、藤澤氏は全国から発掘された文化財を何でも受け入れられる、センターとしての機能を持つような組織が必要だと考えている。「材質が分からないと、適した修復材料が分からないように、保存科学や修復の専門家、考古学者など複数の専門家がいないと、修復に落ち度が出る可能性があります。日本にはまだ専門家達が協力し合える組織がないので、設立したいという思いはとてもあります」。同氏のその視線の強さに、夢では終わらせない決意を感じた。