たまたま行った旅行先のタイが、人生の大きな転機となる。
陣内氏がこの道に進んだきっかけは、タイとの出会いが大きく起因する。当時、全く別の仕事をしていた陣内氏は、旅行でタイを訪れる機会があった。その時に、現地の人びとの生き抜く力に衝撃を受けたという。「戦後復興時の日本は、きっとこんなエネルギーに満ちあふれていたんだろうなと感じ、この国の人たちと仕事をしたいと思ったんです」。当初はタイの市場などで買い付けをして日本で販売していたが、現地の腕のいい職人たちと出会い、オリジナル商品の製作を依頼。タイで工房を立ち上げることになる。「私が考えたオリジナルの商品を買って喜んでいる人がいる。今まで経験したことがない感動を覚えましたね」。その感動は、さらに良いものをつくりたいという意欲となり、S’FACTORYが本格的に始動する原動力となった。
大洪水という天災が、その後の成長を担う光明となった。
タイでのものづくりは順風満帆に進んでいたが、思わぬ障害が立ちはだかる。2011年におきたタイの大洪水だ。現地の工房は屋根下まで浸水。半年間もの間、ものがつくれなくなる。「国内の職人に知り合いがいなかったので、自分の手で商品をつくろうと思いました」。師匠がいた訳でもなくこの思い切った決断には、途中で挫折という結果が待っていたかもしれない。だが陣内氏には、ファッションには欠かせないセンスと、持ち前の器用さが味方をする。「普通ではない、他とは少し変わったデザイン案は考えられるので、ミシンの使い方を覚えたら意外に早く出来るようになりました」。もともと職人気質があったのですねと同意を求めると、「私は決して職人ではないですよ」という返事が返ってくる。「師匠のもとで修業を積んでいませんし、考え方もつくり方も全て独学。それでは職人さんに失礼なので、私はクリエイターと言われるのが一番しっくりきますね」と。謙遜かと思ったがディスプレイされた、センスとオリジナリティあふれる商品を見ると、その言葉の意味を素直に納得できた。
普通を好まない人に愛され続ける、陣内氏のものづくり。
ブランドが軌道に乗り始めると、陣内氏は新たな欲求が湧いてきた。ブランドの枠や原価の枠に捕われず、感性の赴くままに“つくりたいものをつくりたい”という思いだ。もう一つのブランド「SIXTH SENSE(シックスセンス)」は、その思いを具現化したもの。ヘビの顔やワニの手、水牛の角などを使用したアイテムは、どれもが強烈なインパクトを放っている。「普通の人は持ちたくとも持てない商品ですが、エスファッカーの皆様は、新作がいつ出るのか常に待ちわびていてくれるんです」。陣内氏は“普通を好まない”このシックスセンスのファンたちを、尊敬の念を込めて「変態様」と呼称しており、その言葉はエスファッカーの最上級の褒め言葉としても浸透している。“変態様限定”という言葉につられて購入する人もいるほどだそうだ。独特の世界観ではあるが、心を掴まれるお客様が確実に増えているのは、デザイン、発想、丁寧なつくり、全てに才気あふれる逸品となっているからだろう。今度はどんな商品が登場するのか。常に“次”を期待したくなるクリエイター陣内氏の発想に今後も注目していきたい。