出来ることを増やしていくと、辛い状況でも前向きになれる。
おへひょ氏は以前、スノーボードやスケートボード、インラインスケート、自転車のフラットランドなど、アクティブなスポーツが趣味だった。さらにエリア的に蔵王に近いということもあり、スノーボードは国内・海外合わせて年間100回以上も滑りに行っていたという。「以前」と上述したのには理由がある。35歳の時に大怪我をしてしまったからだ。「スノボをしに行った時に首の骨を折ってしまったんです。大分良くなりましたが、まだ麻痺は残っています」。事故直後、医師からは寝たきりになるか車椅子生活になるだろうと言われ、会社も辞めざるを得なかった。「首から下が全く動かないという状態だったのに、病院のベッドの上で、ひょうたんランプをもう一度つくりたいと思ったんです」。この願いを実現させるためにリハビリが始まるが、握力が0kgからのスタートは困難を極める。通常のリハビリだけでは回復に時間がかかると思った同氏は、ひょうたんに穴をあけるドリルを持って、1日4〜5時間ほど疲れるまで動かす練習をしたという。「1年後ぐらいに握力が10kgぐらい戻って、やっとひょうたんを持てるようになりました」。途中で諦めようと思ったことはなかったのか伺うと、「怪我をする前と比べて、全てがマイナス。だから、ほんの些細なことでも出来るようになればプラスになります。プラスのことが増えると、前向きになるんですよ」。おへひょ氏は自信を持って答えてくれた。
人からの賞賛が、ものづくりの原動力となる。
身体が少しずつ動くようになったおへひょ氏は、ひょうたんランプを再びつくり始める。次第に作品の数は増えていったが、それはあくまでも作家としてではなく趣味の範疇であった。そんな時、同氏の背中を押す出来事が起こる。「障がい者の方達の芸術をメインにした展示会で実行委員を担当し、自分の作品も出品しました。すると観客の方達から、“欲しい”“買いたい”という声をもらったんです」。自分の作品を気に入ってくれる人なんていない。そう思っていた同氏は、今まで経験したことのない気持ちが初めて生まれる。「私がつくったものを評価してくれて、購入して生活の中で使用してくれる。素直に嬉しかったですね。ひょうたんランプを本格的につくろうという気持ちになりました。褒められたり、良いねと言われることは、ものづくりの原動力になるんですね」。ひょうたんランプ作家として、どんなところにオリジナリティを追求しているのか伺うと、「私がつくっているものがオリジナルかどうかは考えてみたことはありません。ただ、つくりたいという意欲とつくる楽しさ。そのような自分の気持ちは作品に前面に出ています。もしかしたら、それが私のオリジナリティなのかもしれません」。
人と出会って接することで、日々の幸せが生まれる。
今年おへひょ氏は期限が切れていたパスポートの更新をした。事故後はあまり外に出なくなっていた同氏にとって大きな変化だ。きっかけを伺うと、ワークショップだという。「ランプをつくるというクリエイティブな楽しみはありましたが、自分の幸せって人との出会いから生まれるものだって思い始めたんです。それでワークショップを開催しました」。本当に人が集まるのか?という不安があったそうだが、ひょうたんランプ好きが集まり、さらに開催する度に参加してくれる常連さんもできたという。「参加者の方と話し、笑顔になりながらものをつくるって、本当に楽しいんですよ。連絡先を交換して、別の日にみんなでご飯を食べに行く機会もあります。明かりづくりを今日まで辞めずに続けてこられたのは、まさに人との出会いですね」。ワークショップは楽しさだけではなく、作品づくりにも影響を与えているそうだ。「一人でつくっていると、インプットが少ないのでアウトプットしにくくなる。でも参加者の方から自分に興味がなかったものも教えてもらえるので、作品の幅が広がります。この広い世界で、自分の興味・関心があるものだけで生活するのって、実はつまらないんですよ」。おへひょ氏はさらに続ける「仲良くなった人たちの喜びを一緒に楽しんだり、悔やんだり、泣いたりするということは、自分の人生以外も体験すること。それは楽しみであり生きがいにもなるんです 。旅行先はまだ具体的に決まっていないそうだが、今後は国内海外問わず、できる限りいろいろな場所に行き、人に会っていきたいという。これからの作品づくりにどのような良い影響が出るのか、今から楽しみだ。