第30回 千葉県 オーエックスエンジニアリング様

市場に無かった、機能性、デザイン性に富んだ車椅子の完成。

現社長である石井勝之氏によると、当初は製品化を考えていなかったという。「先代は、車椅子でさまざまな場所に出かけたいという思いがありました。でも当時は、病院にある車椅子の延長のようなものしかなかったので、自分が乗りたい車椅子をつくろうとしたんです」。オートバイで培った卓越した技術力を活かし、機能性に富みデザインも優れた車椅子を製作。これまで目にしていたものとは全く違ってカッコ良く、しかも軽くて丈夫な一台が出来上がった。これなら他の人たちも乗りたいのではないかと思い、商品化の方向で舵を切ることになったという。しかし、ほぼ全てのパーツを内製化したため、一般的な車椅子の倍以上の価格となってしまい、売れ行きは順風満帆とは言い難い状況だった。そんな中、1995年に発売した「MX-01」が「中小企業優秀賞(工業デザイン部門)」や「福祉機器コンテスト優秀賞」、「グッド・デザイン(医療・健康・福祉部門)中小企業庁長官特別賞」といった数々の賞を受賞。次第に、オーエックスの名が浸透し、車椅子メーカーとしての地位を築き始めることになる。同社の車椅子の特徴は、機能性だけではなく、デザインを重視したカスタマイズも可能であること。フレームは100色以上のカラーから選ぶことができるという。「車やオートバイは自分の好きな色が選べますよね。車椅子もそうあるべきだと、先代は考えました」。製作側の手間は計り知れないが、まさにユーザー視点のものづくりを実践している。

時に1年以上もの時間を要する、アスリート向けの競技用車椅子。

同社が、日常用の車椅子と同様に力を入れているのが競技用だ。車椅子の開発で得た知見や構造の考え方などをさらに進化させ、競技用に活かしている。競技用の車椅子の中で、陸上競技用のレーサータイプを担当している小澤氏によると、一人ひとりのアスリートに合わせて全てオーダーメイドだという。「設計図は障害の度合いによって違いますし、筋肉のつき方も一人ひとり違います。それらを把握しながら、アスリートが何を求めているのか、要望を聞くことが最も重要です」。例えば、「ここをもうちょっと」の“ちょっと”が、どのくらいのレベルなのかを詳細に聞き出し理解を深め、数値化することが一番難しいそうだ。「満足して頂けるまで、図面を何十回と書く時もあります」と、テニスやバスケットの競技用を担当している在原氏も教えてくれた。最後まで妥協せず対応をすることで、アスリートが使いやすい1台が出来上がり、それが成績に直結する。その結果、“優勝した選手が乗っていた、あのカッコ良い車椅子はどこのメーカーだ?”と話題が広がり、世界の注目を集めることになった。試合会場でオーエックスのロゴを見て、アメリカをはじめ各国から多くの選手が、車椅子をつくって欲しいと来日するという。
同社の競技用車椅子が、パラリンピックで使用されるようになったのは、1996年のアトランタ大会からで、2021年の東京大会でも多くの競技で使用されていた。これまでのメダルの数は、驚くことに140を超える。しかし小澤氏は「私たちが凄いのではなく、あくまでも選手の力によるものです」と話す。そんなサポートに徹している姿勢が、多くのアスリートに支持されているのだろう。

機能性、デザインの良さだけでなく、新しい体験をできる商品を提供する。

石井勝之氏に今後の展望を伺うと「多くの人々に、新しい体験ができる商品を提案していきたい」と語ってくれた。その一つが、車椅子の従業員の声から開発された『クロスウィール』だ。クロスウィールは車椅子に脱着するフロントホイールで、装着すると走行性能と快適性が格段に向上。悪路でも走行が可能となり、また狭い場所でも旋回しやすいという特徴がある。私達の日常環境を見渡すと、バリアフリー対応されていない場所がまだ多い。そのため、車椅子ユーザーの活動範囲は自ずと制限されてしまい、運動不足になってしまう可能性がある。しかしこのクロスウィールを使用すれば、今まで行けなかった場所へ出かけられるという新たな体験を提供でき、日常の健康管理をサポートすることにもなる。 取材の中で石井氏は、「将来はバリアがあるところをバリアフリーで行けるような乗り物をつくっていきたい」と話していた。それは、同社の経営理念の「未来を開発する」ということにも繋がる。これまで同様に、アスリートの希望を叶え、成績に直結する競技用車椅子はもちろん、未来を開発するという新たな視点で開発していく車椅子。そのどちらにも妥協せずに取組んでいくオーエックスエンジニアリングに、さらなる期待をしたい。