技術と経験が、
良い音を奏でさせる。
30年以上もこの道を邁進している河野氏だが、三味線づくりの面白さは、やはり皮張りだと迷い無く答える。三味線の音を出すのは皮の部分。だからこそ、良い張りができれば必ず良い音がでるという。皮が破ける寸前まで張るのだが、規則性はない。皮の限界は1枚1枚全部違うので、どこまで張っていいのか、その判断は手触りと長年の感覚が頼りというわけだ。「限界の音(良い音)が必ずあるので、その音に近づけていくために張っていく。破けるかどうかは、私と皮との駆引きですよと笑う。そして、「家元に持って行った時に、今日良かったよと言われることが何より嬉しい と控えめながらつけ加えた。
海外の人たちに、伝統文化の楽しさを体験して欲しい。
独立開業当時、三味線は文字通り飛ぶように売れ、とても忙しかったという。しかし時が経つにつれ、大衆の娯楽であった三味線の需要は低下し、身近な存在の楽器ではなくなってしまった。このままでは三味線の火が絶えてしまうと危惧した河野氏は、海外に広めるという目的のもと「三味線キット」を開発した。もともと自ら気に入った材料を海外から輸入していた河野氏。素材選びで培った確かな目で、このキットのために合成の皮を開発、同時にコストを抑え、海外の人でも手に取りやすいものとして仕上げた。「日本の伝統文化を自分の手で作って、その楽しさを体験してほしい」と河野さんは、海外での広がりに期待している。
守るべき伝統と、
変えて行くべき伝統。
近年、河野氏は弟子と共に葛飾区の小学校を訪れ、子供達に三味線を体験させる取組みを自主的に行っている。楽器自体を知らない子が半数以上だが、弾き方を教え自分で音を出す体験をすると、興味を持つ子がほとんどだそうだ。この普及活動を今後も続けるにあたり、子供達が手に取りやすい教材となるような三味線を、企画開発中だという。手づくりだと高価になってしまうので、機械を使用した安価なもの。「伝統という大きな枠で縛られていると何も出来なくなっちゃう。守るべき所は守り、変えて行くべき所は変えていく。伝統は途絶えること無く、進化し続けなくちゃ。河野氏が提供した三味線を子供達が作り、音楽の時間に皆で演奏する日は、そう遠くない気がする。