伝統的な木工芸 木彩(寄木細工)で、異彩を放つ
クロサキ工芸でつくる木工作品の特徴は、指物の表面に寄木細工を活かしていること。寄木細工とは、種類も木目も、色合いも違う様々な種類の木材を組み合せることで、美しく精緻な幾何学模様をつくりだす伝統ある木工芸。同工房では、独自の表現で「木彩」と呼び、とても力を入れている。理由は、木の美しさを活かしながらオリジナリティを出すことができ、同時に品位を向上させることができるからだ。伝統工芸品はもちろん、お客様からの特注品をつくるにあたり、黒崎氏が大切にしているのは『他の人と同じものはつくらない』という信念。緻密かつ繊細な唯一無二の木彩をつくりあげるためには時間を惜しまず、かつ翡翠などの石と木材を組み合わせるなど、遊び心を入れながら常にチャレンジを試みている。
木工の道を選び、父を師匠として仰ぎはじめた子供たち
現在、黒崎氏の長男・敏雄氏と次女・容子氏が木工への道を歩み始めた。敏雄氏は啓弘氏と同様、当初はこの仕事があまり好きではなかったという。木工品づくりに興味はあったが、どんなに自信のある作品をつくっても、啓弘氏から“合格”のひと言がもらえなかったからだ。しかし、カンナの刃の研ぎ方など道具の基本的な仕込みから教わり、木の繊細さを知ることで、自身と父親の作品との圧倒的な仕上がりの違いが分かるようになった。容子氏は同じ木工でもアクセサリーを担当。汚れた状態の原木を削り、何度も磨き、最後は芸術の域にまで到達する父の技術力の高さを、木工という同じフィールドに立って初めて思い知らされたという。二人は今、少しでも父のレベルに近づきたいという、共通の思いを抱いている。
家族として、木工品の作り手として、
3人が寄添う
現在、家具の多くは大量生産が主流。一つ一つ手づくりで行う、同工房の家具づくりは、非効率に見えるかもしれない。だが「うちはオーダーメイドなので、お客様の夢を叶えることができる」と敏雄氏が言い、父の啓弘氏は「お客様との会話の中からオーダー以上の提案をしたい」と熱い思いを重ねる。他では見つからない、探していたものに出会えるという大きな喜びを、手づくりなら提供できるという自信があるからだ。「木は家具になっていても生き続けています。経年により変化していく表情、味わいも楽しんでほしい。」そう容子氏が言うように、木とは寄添いながら暮らすことができるもの。「まだまだ半人前」と子供たち2人は謙遜しているが、3人が同じレベルで寄添った時には、今以上に美しく高度な作品が生まれるだろう。