たった一人でもお客様がいる限り、つくり続けるという確固たる信念。
レコード針の売行きは順調な推移をたどるが、この明るい未来を阻むものが現れる。1982年に登場したCDだ。文字通りのコンパクトさ、取扱いの手軽さなど、レコードとは一線を画す新たな音楽ソフトの登場により、レコードの需要は激減。次第に店頭からその姿を消し、同様にレコード針の需要も減少した。同社も販売は落ち続けたが、製造を止めることは一切なかった。「一人でもお客様がいる限りレコード針をつくり続けるという先代の意志を引き継ぎ、職人としての責務を全うすることを選んだからだ。自国では減少していたが、欧米では根強いレコードファンが多かったため輸出は継続。吹いていた風は小さかったが、同社のレコード針の愛用者は、着実に世界中に増え続けていた。
手間と時間をかけるレコードには他とは比べようのない楽しさ、豊かさがある。
ここに来て、新たな風が吹き始めた。音楽のデジタル配信が主流の今だが、アナログレコードが世界的に復活しつつあるという。日本レコード協会によると、2015年のアナログレコードの生産量は66万2千枚に上り、2014年と比べて65%増。レコード文化の火は、決して絶えることがなかったのだ。この人気を代表の仲川氏に伺うと「ものに宿る物語性を、人々が求めているのだと思います」と語る。ダウンロードやCD、そしてレコードも、同じ音楽だ。しかしレコードは、クリーナーで綺麗に拭きターンテーブルにおく。そしてゆっくりと針を落とし、曲が始まるのを待つ。針が進み、A面が終わればB面に返す…。他の音楽ソフトと比べ、手間も時間もかかる。だが一連の所作を含めた時間こそ、レコードの醍醐味。この豊かな時間を楽しみたい人がいる限り、レコードは決して無くならないだろうと仲川氏は確信している。
レコードを聴く環境をさらに豊かにするものづくり企業とのコラボレーション。
同社の交換針のブランド名は「JICO(ジコー)」。レコード知らずに育った20代のスタッフも含め、たった6人で国内外2200種類の針を、全て手作業で一つ一つ製造している。その品質、技術力には定評があり、今や世界各国、約200の国・地域にJICOファンは拡大中だ。今後の展望を仲川氏に伺うと「主役であるレコードを引き立てるアイテムを、さらに増やしていこうと考えています」と語る。化粧筆を使用したレコードクリーナーや、世界初の「漆塗り」の意匠を施したレコード針、天然の牛革を使用したラグジュアリー・ターンテーブル・マットなど、すでに国内の実力ある企業とコラボレーションした商品が誕生。もうすぐ檜を使用したスピーカーも登場するなど、ものづくり企業とのコラボは今後も展開し続けていくという。主役のレコードを、脇役だが魅力的なアイテムを使用して視聴する。レコードを聴く楽しさは、今後さらに増大していくだろう。