試作品で培ったものづくりのスピードと技術を、医療に活かす。
2005年、クロスエフェクトの“世界最速”という言葉に敏感に反応した人物がいた。京都にある病院の医師だ。「工業系のものづくりで培った技術を使って、赤ちゃんの心臓をつくって欲しいと依頼されました」と竹田氏は当時を思い出す。ただでさえ赤ちゃんの心臓の手術は難しい。事前にCTスキャンの画像データを見てから手術を行うが、詳細までは確認できない。そのため、手術を成功に導けないこともあるという。手術前に患者である赤ちゃんの心臓のモデルがあれば、術前シミュレーションが出来、命を救える確率が高くなるというわけだ。しかし意外にも、竹田氏はその依頼を断ってしまう。「目の前の仕事が多く、しかも領域外の分野だったので出来る自信がなかったというというのが大きな理由でした」。でもある時、信奉するピーター・ドラッカーの言葉を思い出す。「問題ではなく、機会に焦点を合わせるというドラッカーの有名な言葉があります。私は医師からの依頼を問題、しかも大問題だと捉えていました。でもそれは機会で、会社が成長できるチャンスだったんです」。2009年、偶然にも竹田氏は同じ医師と会うことになる。「赤ちゃんの心臓模型をつくれる企業をまだ探していると聞いて、即座にチャレンジさせてくださいと私の方からお願いしました」。医師とのこの日の再会が、現在の心臓モデル誕生のきっかけとなった。
人の命を救うという使命感を持って、真摯に仕事に取り組む。
試作とは、試しにつくるということ。誰もやったことがないものをつくるのは、当たり前だがとても難しい。クロスエフェクトはこの難しい仕事を創業時からやっていたので、新しいことへの挑戦はスタッフにとって当たり前になっていた。心臓のモデル開発は難しい課題ではあったが、スタッフには拒絶感はなかったという。「試作は答えが提示されていないので、自分で解答を見つけ出します。スタッフは皆、私が想像していた以上に自己解決能力が身についていました。自分自身の力で成長していたんです」。ただ軌道に乗り始め忙しくなっていくと、スタッフは仕事をやらされていると感じているのではないか?と竹田氏は心配するようになった。目の前のことを、ただこなすという仕事はして欲しくないという思いからだ。しかしそれは、全くの杞憂であることに気づかされる。「あるスタッフが夜遅くまで心臓モデルをつくっていました。私のところにきて“この子の心臓はもの凄く小さくて糸が絡まったように内側がグチャグチャなんです。でもこの子、助かると思います。僕がつくりながら頑張れよ頑張れよ、絶対助かるからなと思ってつくったから必ず助かります”というんです。自分の命を使って、人の命を救う。これが使命なんだなと思いました」と、竹田氏は言う。このスタッフだけではない。他のスタッフも“私の仕事は命を救えるんだ”という意識が生まれ、使命感をより強く持って仕事に取り組めるようになったそうだ。竹田氏は、この事業にとても感謝しているという。
自分たちが開発した技術や商品を、世界中に届けたい。
現在、同社の社員数は30名弱だが、2020年までに60名体制にするビジョンがある。着実に実績を重ね成長を続けているが、本社はあくまでも創業地である京都から移さないという。「京都は観光客を含め、世界中から注目を集めています。文化があり行政もしっかりしている。こんな良い場所にいるのだから、メイドイン京都ジャパンにこだわって活動して行きたいですね。東京に移さないのですか?と、よく聞かれますが、今後も移さないと思いますよ。なぜなら、私自身がとても京都を好きだということ。そして京都の人間は、東京を見ているのではなく世界を相手にしているから京都を出る必要がないんです。まっ、半分やせ我慢ですけどね(笑)」と、茶目っ気交じりに話してくれた。同氏は起業当時から、ビジネスは地球規模であるべきだと考えている。心臓モデルの開発により、現在ではアメリカやドイツなど、医療先進国から引き合いや注文が増えている。同社の夢は今、確実に現実へと近づき始めている。