世の中にあるものと同じような家具はつくりたくない。
修業期間を経た西田氏は、その後企業に就職し、27歳で独立。当時は、主に民芸家具などを数多くつくっていた。しかしキャリアを重ねるにつれ、とある気持ちが募っていく。「分担作業ではなく、自分一人でものをつくりたいと思うようになったんです」。この職人として当たり前の気持ちを満たすために、仕事とは別に個人的にものづくりを行っていたと言う。「妻が使いやすい家具であったり、自分が好きなデザインのものをつくっていました」。それは、企業や知人などから依頼されていないので、完全に西田氏がつくりたいものばかり。どのような家具なのか具体的に伺うと、「和ダンスも、食器棚も家具と言われるものは、こんな形だと想像する一般的な姿があります。私は現在世の中にあるものと同じものはつくりたくないんですよ」。その言葉通り、人が二人も座れるチェストや、ひねりが効いた美しい曲線の収納箱、平面ではなく波を打ったテーブルなど、まさに唯一無二の作品が目を惹く。こうして販売目的では無い芸術作品のような家具をつくり続けていた時、西田氏の知人がアドバイスをする。「個展を開催してみてはどうかと勧められたんです」。福岡で開催された個展は、初めてにもかかわらず、初日から最終日まで大盛況。「私用で、ギャラリーには2時間ほど遅れて到着したのですが、来場者が多くて私も入れないほどでした」。西田氏はそれ以後、それまで以上に自作の家具づくりに邁進していった。
木はどんな形にもできる。だから木を使った家具にこだわりたい。
西田氏は家具づくりにおいて、木の素材にとてもこだわっている。その理由を聞くと、「もともと木が好きなことと、削ることも曲げることもできるので、木はどんな形にも出来るのが良いですよね。だから木の素材の家具しかつくっていません」。と教えてくれた。ショールームに案内してもらうと、西田氏の言葉は嘘なのではないかと疑いたくなる衝動に駆られる。なぜなら、木でつくったとは思えない家具があるからだ。その中でも見た目は石にしか見えない家具があったので、確かめようと実際に手で触ると、やはり石としか思えない。“本当に木なんですか?”と聞くと「それは木ですよ。木を削り、加工を施して質感まで石のようにしています」と丁寧につくり方まで教えてくれた。「美術館に行くと、いろいろなものが本物そっくりにつくられているのを見ますが、家具でも同じように出来るんじゃないかと思い、挑戦してみたくなるんです」。挑戦したが、完成できなかった家具はどのようなものだったのか、興味本位で質問すると「出来なかったものは一つもないですよ。つくろうと思ったものは、全てつくっています。途中で諦めなければ絶対に完成するんです。私だけじゃなく誰でもできると思いますよ、諦めなければ」と答えてくれた。
芸術家ではなく、職人として家具づくりを行う。
先述したように、世の中にない、見たことがない家具をつくりたいという西田氏に発想の源を伺うと、あらゆる芸術作品だと言う。「美術館や博物館に行くと感動したり、凄いと唸るような作品があります。私はそのような家具をつくりたいと思うんです」。何か具体的に“これをつくろう”ではなく、“あの作品には負けたくない”という思いが、家具づくりの原動力になっているそうだ。思わず、家具職人ではなく芸術家への道を考えたことはないのか尋ねると「やはり私は根っからの職人なんですよ。引き出しをつけたり、取っ手をつけたり、最後は人が使うことを想定してつくりあげてしまうんです」と笑いながら話してくれた。アート的な家具をつくる理由がもう一つある。昔と比べ、現代の住まいは、ウォークインクローゼットなど家具が必要無いつくりになっている。「家具を置くと部屋が狭くなるし、邪魔になると思う人がいます。だからこそアート的なものの方がいいんです。その家具を置いたことで、部屋の印象がパッと変わりますから」。その言葉を裏付けるかのように、西田氏が手がけた食器棚を購入したお客様から“今まではダイニングに家族は集まっていましたが、この食器棚を購入してからは、いつもキッチンに多く集まるようになりました”と感謝の言葉を言われ、とても嬉しかったそうだ。今後つくりたい作品を伺うと、「先日、山口美術館で凄い作品を見たので、あの作品には負けたくないものをつくりたいと思っています」。世の中に人々を感動させる芸術作品がある限り、西田氏の創作力は、衰えることはないだろう。