第31回 岐阜県 丸章工業様

開発から担当することで、より独自性の高い商品開発を目指す。

現会長の長谷川泰久氏は、代表を務めていた時に「世の中にない、他とは差別化できる商品を開発する」という考えを強く推し進める。その理由を伺うと「企業価値を高めるため、本格的なものづくりをしたかったんです」と教えてくれた。関市の刃物づくりは古くから分業制で成り立っており、それぞれの工程で専門の職人が担当していることが多い。しかし泰久氏は、関市では珍しい一貫生産体制にすることを決意。設計段階から取り組むことができるので、より独自性の高いウォンツ商品を開発できると考えたからだ。当時、泰久氏から製作の指示を受けていた現包丁部マネージャーの酒井氏によると、とにかくこだわりが半端ではなかったと回想する。例えばハサミは、何を切るのか、目的を明確にすることから始まる。花の茎を切るには、刃の角度は50度がいいのか、48度の方が最適なのか、思考を巡らし徹底的にこだわっていたという。一般的なハサミの中で、より機能を高めるには、精度の良い加工をしなければならない。泰久氏は、最適な加工をするために高額な最新機械をいち早く導入し、ハサミだけでなく包丁やナイフにおいても付加価値の高い商品を次々に開発していった。

これまでの商品を超える!という強い意思が、かつてない価値ある商品を生む。

2017年、泰久氏に代わり代表を引き継いだのが長谷川智広氏である。会長の考えを理解、共感していた智広氏は、ものづくりへの姿勢を踏襲。だが、会長の意思をそのまま受け継ぐのではなく、さらに感性に訴える商品開発を目指した。智広氏は主に海外での販路拡大を担当し、これまで世界各国で開催された見本市に参加してきた。世の中の動向や丸章工業の優位性などは理解していたが、それだけでは今までの商品を超えるものは出来ないと考え、長年共に歩んできた包丁部マネージャーの酒井氏とタッグを組むことを決断。智広氏自身が持つ知見や情報と、酒井氏が経験してきたものづくりの考えを融合すれば、斬新な商品が誕生できると思ったからだ。先ずは当たり前の考えを捨てることから始め、通常は使用しない素材から検討。さらに、工程工法も改めて考え直した。新たな工程工法を見つけ出すことで仕上がりのデザイン性が1ランクも2ランクも上がることを、会長から常々教えられていたからだ。何度も議論を重ねた末、遂に誕生したのが限定モデルの包丁『四神』シリーズ。第1弾「朱雀」、第2弾「白虎」、第3弾「青龍」、それぞれ全世界50セットの限定で発売し、とても高価な包丁であるが、全て完売という嬉しい結果となった。

趣向を凝らすものづくりへの姿勢が、若手スタッフの成長に繋がる。

『四神』シリーズ第三弾となる「青龍」では、丸章工業がこれまで経験してきたことがない工法を取り入れている。通常、刃先の表面仕上げはハンドメイドで磨き上げるが、これまで培った技術を最大限に駆使したとしても、求めているレベルの鏡面にはならないことに気づく。そこで、最先端の工作機械と手作業を融合することを選択。出来上がった鏡面仕上げの美しさは、まさに芸術品の様な輝きを誇っている。 酒井氏によると、今回現場のスタッフには、商品の仕上がりイメージだけを伝え、やり方や方法などは各自に任せたという。スタッフ同士で意見を出し合いながら、かつ自分自身でオリジナルのやり方を考える。最初はとても難しさを感じていたが、「新しい何か」を考える楽しさに気づき、最後にはスキルアップしていったスタッフが多かったそうだ。丸章工業の感性に訴える商品づくりはこれからも続く。そのハードルは高いが、世界でも類を見ない価値を目指すものづくりへの姿勢が、若手スタッフの目覚ましい成長に繋がり、「次」の商品への期待は高まるばかりだ。